◆ Viewing展2025 選考委員賞作品

 

有坂隆二賞:鈴木 雅史「闘う鳥」


[作者プロフィール]
1993年生まれ 高崎市在住
中学生の頃から美術部で風景画やデッサンを描いていた。
2015年頃、草間彌生の作品を観たことが、彼の中では大きな刺激となったようだ。
彼は10Hの細い鉛筆で2ミリ位の大きさの三角を大きな画用紙に埋め尽くしていく。
彼の日常はクリーニング店で働いている。描く時間は限られているが、数か月かけて2ミリ位の大きさで埋め尽くされていく。
その作業が終わるとその小さな形を淡い色鉛筆で塗りつぶしていく。パステルカラーや様々な色が混じり合い不思議な世界に変わっていく。
完成が近くなってくるとそこには形が現れる。鳥だったり何かの模様だったりする。
無意識に描いているようだが、そこには計算され尽くされたものがあるのだと完成間近になると気が付く。
[所属]
NPO法人工房あかね

[選考委員名]
有坂隆二(アーティスト)
[選考委員コメント]
はじめ、作品の前に立った時になんとなく通り過ぎちゃった。あれっと思って、戻ってよく見てみると、とてつもない。
何かおかしいなと思ってよくよく見ると、紙が1mmくらいの三角に凹んでいる。
その凹んでいるところに色鉛筆で着色している。で、離れてみると、全体としては大きな鳥の絵。
よくみるとイメージがあるんだけど、それを構成している無数、無数と言っていい数の三角形。彼の描いている時の気持ちを知りたい。
一見通り過ぎてしまうようだけど、立ち止まったらなかなか作品の前から離れることができない。
どれほどの時をこの画面の前で作者が過ごしたのか…すごいとしか言いようがない。

 


 

梶原紀子賞:熊本 健二「大漁」


[作者プロフィール]
就労継続支援B型を利用しており、作業前や休憩時間に描いている。夜寝る前に構想を練っていることも。
2022年、宇都宮市のわくわくアートコンクールに出展することをきっかけに絵に興味を持ち描き始めた。その経験を活かし、2024年のわくわくアートコンクール出展を目標に再び描き始めたところ、それが周囲から高評価を得たことでご本人のモチベーションもあがり、Viewing展に向けても作成を始めた。
[所属]
社会福祉法人晃丘会 障害者支援施設ひばり

[選考委員名]
梶原紀子(もうひとつの美術館 館長)
[選考委員コメント]
いままで人物が入った絵っているのは選ばなかったんだけど、この歯がいいなって思って。
いかにも大漁で喜んでいる漁師の人たちの感じがしていいなぁ、って。
鮎かな?山があるところでやっているから。

 


 

梶原良成賞:笹沼 雄一朗「ブルーベリー」


[作者プロフィール]
1977年生まれ。
日々、事業所へ通所されて、室内・屋外作業問わず活躍されています。何事にもしっかりきっちり取り組むのが彼のスタイルです。それは絵に向き合う姿勢や描く絵画にも表れています。
[所属]
社会福祉法人すぎの芽会 デイセンターすぎの芽

[選考委員名]
梶原良成(宇都宮大学共同教育学部 教授)
[選考委員コメント]
基本繰り返しなんだけど、伸び縮みしながら画面を満たしていくという、時空が歪んだような、不思議な感じがすてき。
1個1個が塗り方も描き方も微妙でなかなか美しいよね。
空間感と実態感のバランスがなんともいいですね。

 


 

中村寿生賞:押森 舜太「日光東照宮五重塔~1/80億フィルター~」


[作者コメント]
自分は小学生の頃よく授業中に日本列島だとかアメリカ大陸だとかを授業をそっちのけで夢中になって模写するようなそんな子供でした。クラスメイトから「シュン地図うま~!!」「まんま教科書と一緒じゃん!!」とかみんなに褒めて貰ったのを覚えています。それが自分の絵の原点だったように思えます。
20歳を超えた直後、個人情報もあるため詳細には書けませんが、凝縮したような厄災が7つ程ほぼ同時に降りかかってきました・・・。その時、自分の中で精神的体力というかメーターをいっきに超えてしまいおかしくなりました。今思えば統合失調症の症状だったのだと思います。昼夜逆転の生活になり、思いもよらないような行動をしていました。そんな時にふと絵を描き始めました。
絵を描いたのは、中学生や高校の頃の美術以来で久しぶりだったのですが、小学生の時に地図を模写していたこととその時何故か不思議と色と色の境目が物凄く精密に見えるようになり、その二つがいい感じに噛み合いそれが自分絵ないし今の画風へと繋がっていきました。
その後は省きますが、入退院を経て平静を取り戻し現在は、作業所来夏様の方で自立に向けて頑張っています。
[所属]
NPO法人来夏

[選考委員名]
中村寿生(文星芸術大学 准教授)
[選考委員コメント]
パッと見て、すぐ東照宮の五重の塔だなと思いました。
すごいよく見ていると思います。
彫り物があるんですけど、それがあるようなないような、なんかすごくいい感じで。石垣もすごくいいし…
なんか惚れてしまいました。

 


 

橋本慎司賞:金子 耕大「いまいずみせんせい」


[作者プロフィール]
1998年生まれ
アートオンは数年前から月に一回だけの利用だが、作品数はすでに膨大である。
多くは、家族で出かけた日記風のものが多い。そのタッチは大胆で力強く迷いのないマジックの線が、画用紙の隅から隅までを覆いつくす。モノの見方が独特で会食の風景はまるで双六の図面のように俯瞰したテーブルだったり、真横から見る電車は抽象画のようでもある。
[所属]
NPO法人工房あかね

[選考委員名]
橋本 慎司(栃木県立美術館 副館長兼学芸課長)
[選考委員コメント]
これだけでも面白いなと思ったんだけど、裏返してみたら(タイトルが)「いまいずみせんせい」って。
たぶん好きな先生なんだと思うんですけどね。
好きな先生で、たぶん男ですよね? ひげが生えてて、中年ぐらいのひとなんだろうけど…線が全然ためらいがなくて、「髪型はこう!」「顔はメガネかけてこう!」「ヒゲが生えてる先生大好き!」みたいな感じで描いたんじゃないかなって思って。
グレーと黒の線描で先生を一気に表現している。バックの色合いもなかなか。偶然なのかどうかわからないけど、すごくいい。
写実的とは言えないんですけど、でも崩して描いているわけではないとは思う。
スピード感もあるし、勢いのある作品だなと思います。
肖像画として、僕にはすごく斬新に思えた。

 


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